この家の前で車を降りると、道向かいの林から朝日がこちらを差していた。4~5世紀の中国、魏晋南北朝時代の隠逸詩人、陶淵明(とうえんめい)の世界観を思い出さずにはいられない。朝廷からの招聘もこばみ、隠棲生活を送りながら田園で詩をつくり、第二の人生を謳歌している。「尋陽(じんよう)の三隠」と称された一人で、いわゆる晴耕雨読の生活を主題とする一連の作品は、同時代および後世の人々から理想の隠逸生活の体現として高い評価を得た。
まさに、この家は、第二の人生を謳歌するために用意されたと言える。新庄盆地を形作る山々に囲まれ、眼前は開けた田園。二階建ての離れは、詩や散文、そんな創作意欲を黙らせてはくれない存在だ。
本宅に足を踏み入れると、落ち着いた和の雰囲気が出迎えてくれる。玄関廊下が広い。リフォームの構想が頭にちらつきつつ、宅内を巡った。なんと、和室が1・2階合わせて7部屋もある。大リビングにしてもよいだろう。雪国の薪ストーブ生活も楽しめそうだ。
気になる雪対策は、いまでは法的に難しい高床住宅なので安心材料。安心といえば、隣家のおじさんも気さくで親しみやすい方であった。少し世話焼きぐらいの地域の方がいらっしゃるほうが田舎暮らしには合っている。さて、「新庄の三隠」になるのは、いずこの方か。楽しみだ。